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裏起毛スウェット生地の開発秘話

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この記事の監修者岩本悠資
所属:岩本繊維株式会社 代表取締役
出身:1983年10月 京都生まれ
経歴 同志社大学経済学部卒業。
広告代理店入社、営業部配属。
岩本繊維入社後、日本全国の寝具専門店、家具店などの小売店への卸営業活動を経て、自社ECサイト「Living Mahoroba楽天店」「つくるパジャマ」オープン。睡眠健康指導士のアプローチで快眠に関する知識や寝装品、 パジャマ選びなどの情報をブログで発信。
資格
趣味 寝ること、育児、音楽鑑賞、お酒

当店でも大人気の冬パジャマ素材「裏起毛スウェット」。実は様々な苦労と試行錯誤の末、ついに完成した生地なんです。当店の熱い思いと、和歌山のニッター、職人さんの技術力を結集させたといっても過言ではないこちらの素材。今回は私、店長の岩本が開発秘話をお話しさせていただきます。
 

1.「とにかく寒がりな方のために。当店で一番あたたかいパジャマを作ろう」

フリースに負けないあたたか素材を綿100%で

「とにかく寒がりな方のために。当店で一番あたたかいパジャマを作ろう」このコンセプトから生地開発は始まりました。
冬のあたたかい防寒素材だとフリースというイメージがありますよね。実際に生地自体の保温力はかなり高いです。ふわふわしたタッチが気持ちよく、さらに抜群の保温力。しかし、フリースはポリエステルなどの化学繊維でできているため、当店ではどうしても採用できませんでした。
理由は大きく二つです。
・吸湿性がなく蒸れてしまう
・肌に良くない(冬はとくに静電気の影響もあります)
当店ではパジャマは快眠・健康を得るための寝具だと考えています。吸湿性がよく蒸れない、人の肌にやさしい天然素材の綿にこだわりました。色々な生地を探したところ、「裏起毛スウェット」に出会いました。

2. 裏起毛スウェットとは

吊編み機による、効率と引き換えにした「手編みのような柔らかさ」

和歌山生まれのこの「裏起毛スウェット」は、吊編み機という今では日本で数台しか稼働していない非常に希少な編み機で編まれています。
生産性がきわめて低くく、高速編み機と導入とともに姿を消していきましたが、効率を引き換えにしたともいえる独特の風合い、手編みのような柔らかさが特徴です。
こちらの「裏起毛スウェット」は、おもて面が天竺編み、うら面の裏毛を起毛した生地で、肌に当たる面がふわふわした毛布のようなタッチで、フリースに負けないくらいの温かさ。そして、おもて面・うら面ともに綿100%なので、温かくても蒸れないのが最大の魅力です。
こういったスウェット生地はおもて面は綿だけど、うら面がポリエステルなどといったものが多い中、当店では全ての組成、綿100%にこだわりました。

3. 「改善しなければ!」

フィット感と保温力の関係性

2017年の冬からリリースした「裏起毛スウェット」ですが、わたしたちスタッフも実際に使ってみて、最初の感想は「めちゃくちゃ温かい!」「しかも綿だからやっぱり蒸れ感がない」というものでした。しかし次第に使っているうちに肌沿いがよくないことが気になりました。生地にかなりの厚みがあったため、フィット感が弱く、肌と生地にすきまができやすかったのです。基本的には生地そのものの保温性が高いので温かいのですが、体を動かしたりして、肌と生地の間にすきまができると少しひやっとする…。生地そのものの保温性ももちろん大切ですが、さらにその体温を逃がさないという「フィット感」の重要性を思い知りました。
そこで、温かさを出来るだけ失わず、もう少し生地を薄くして、フィット感を出す改善が必要だと考えました。

毛羽(けば)落ちの問題

さらに、販売開始から5ヶ月ほどで毛羽(けば)落ちの問題が発生しました。
実はお客様から直接ご連絡があったわけではなかったのですが、つくるパジャマの自社縫製工場から「最近入ってきた生地は毛羽が出やすい」という報告をもらいました。
毛羽とは生地の表面にできる細くやわらかい毛のことで、他の生地にこすりつけて細かい毛が付着したりすることを毛羽落ちなどと呼んでいます。
起毛素材は元々、毛羽落ちがしやすい素材であることは業界の通念ではありましたが、実際に確認してみると、販売開始当初に比べて、たくさんの毛羽落ちがみられました。すぐに生地供給元に確認したところ、
・原材料の糸の品質を上げなければ根本的に解決できない
・起毛後に丁寧に洗い加工をすればかなり改善できるのではないか
ということでした。
原材料の糸が現状のままだと品質が安定しないので、毛羽が落ちやすいとき、落ちにくいときがあるということでした。そして多かれ少なかれ、起毛する際に落ちてしまった毛羽を洗い流す工程を加えればかなり改善できるのではないかということでした。

4. 生まれ変わった裏起毛スウェット

糸番手を細くして、フィット感がアップ

起毛部分に使用していた、太番手の6番手糸(単糸)から、30番手(単糸)に細くしました。糸は細ければ細いほど、生地は柔らかくなります。柔らかくなることでフィット感もかなり出すことに成功しました。

毛羽落ちがかなり軽減

糸を細くすることで原材料のコットンの品質も上がり、さらに起毛する際に落ちてしまった毛羽を洗い流す加工をしてもらいました。このことで常に安定した毛羽落ちの軽減を実現できました。

40%も軽量化

前回はレディースSサイズのパジャマで1000g程度の重量でした。当店の冬用パジャマでは2番目に温かい「3重ガーゼ」素材で430gなので、およそ2.3倍の重さです。今回は糸番手を細くすることで軽くなり、約600gと前回より40%の軽量化を実現しました。パジャマは寝返りがうちやすく、体に負担がかからないよう出来るだけ軽いものが理想なので、糸を細くすることで素晴らしい副産物が生まれました。

ストレッチ性がアップ

実は糸番手を改善する際、30番手(単糸)と60番手(双糸)の2パターンで試編みしてもらいました。風合いは若干60番手(双糸)の方がよかったのですが、30番手(単糸)の方がストレッチ性がありました。前回の裏起毛スウェットに比べてもかなり伸縮性があったので、「これは良い!」ということで30番手(単糸)を採用。ストレッチ性がある方が寝返りがうちやすいのと、着脱が楽なので、ここはストレッチ性を重視しました。そのため、かぶりタイプも作れたりなどデザインに幅が広がりました。正直、30番手(単糸)と60番手(双糸)でなぜストレッチ性に違いが出たのかは原因は究明できなかったのですが、色々試行錯誤で試編みを繰り返していると思わぬことが起こるものだなぁと思いました。

洗濯後の柔らかさが改善

糸を細くして柔らかくなったからか、洗濯しても柔らかい風合いがあまり変化していないと思います。10月から着続けて、計25回ほど洗濯(2018/12/4現在)してますが、柔らかいままです。(我が家では柔軟剤は使用していません)前回の裏起毛スウェットは洗濯を繰り返すと少し起毛部分が硬くなる感じがありましたが、今回はあまり変わらないのも良い点ですね。

吊編み機の風合いはそのままに

前回は吊編み機で編んでもらった生地でしたが、やはり一日に限られた量しか作れないため、吊編み機で生地を作ることが困難になりました。これにも大変頭を悩ませました。そこで、別の和歌山の職人さんに「吊編み機と同じような風合いにしてほしい」というかなり無茶な依頼をしました。そこで、糸のテンションのかけ具合などを何度も何度も調整してもらい、ゆっくりゆっくり編むことで吊編み機と同等の柔らかさを再現することができました。さらにストレッチ性や毛羽落ちの問題なども様々なことを相談し、協力的に解決してもらいました。本当に職人さんたちに感謝です!

フリースに負けない温かさを証明

実際に生地だけの保温率をみたところ、フリースが54%、裏起毛スウェットが34%。われらが裏起毛スウェットは大敗という結果でした。当店で2番目に温かい3重ガーゼで29.4%なので、その差は歴然です。
ただ、室内環境20℃65%RHのもと、フリースパジャマと当店の裏起毛スウェットを同じ被験者が着用して布団をかぶって1時間経過したときの衣服内温度と皮膚表面温度はほぼ変わりませんでした。つまり、生地そのものの保温性ではなく、着用してみての温かさはほぼ同等という結果でした。そして、衣服内湿度もほぼ同じという結果だったので、もう少し時間がたてば、結果は違ったのではないかと思っています。(フリースの衣服内湿度は70%を超えてくると予想しています)
次回はよりリアルな環境設定のもと検査をし、裏起毛スウェットがフリースに負けない温かさで、蒸れずに快適であることを証明したいと思います。
(検査会社:ユニチカガーメンテック社)
 

5.まとめ

つくるパジャマオリジナルの裏起毛スウェットが誕生

本当に色々な方のご協力のおかげで改良版の裏起毛スウェットができあがりました。もちろん世界にひとつだけのつくるパジャマオリジナルの生地です。オリジナル生地は大量に生地を発注しなければいけないリスクがありますが、わたしたちが求めていた生地は市場にあるものでは賄えなかったため、オリジナル生地を作る形になりました。
これで終わりではなく、今後もお客様の声をもとにどんどん改善していきたいと思います。
そして、和歌山の職人の皆さんはじめ、協力していただいた皆さん、この場をお借りして…本当にありがとうございました!!またお客様のためによいものづくりができるよう力を貸していただければ幸いです!

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